中国起業あるある満載『大班〜世界最大のマフィア・中国共産党を手玉に取った日本人』

中国というか、大中華圏ともいえる東南アジアで会社をやろうと思っている人は、絶対読んだほうがいい本。

小説はあまり読まないのですが、タイトルに惹かれて買ってみたところ・・・なかなか示唆に富んでいて面白かったのでシェアします。ちなみにタイトルにある共産党を手玉に取った日本人というのはちょっと言い過ぎ。手玉に取ったのは共産党地方幹部です。

帯には「驚愕のノンフィクションノベル」とありますが、
巻末のあとがきではフィクションと断りがあります。でも多分ほぼ実話だなw

どんな本か

中国でビジネスをする主人公・千住樹(せんじゅたつき)。
日本人である彼が中国社会でいかに立ち回り、大班(リーダー)と呼ばれるようになったのか。その半生を中国の当時の事情を織り交ぜながら描く。

目次を引用してみよう。

第一章 公私混同しなければ中国人ではない(1992年)

第二章 脱税物販ビジネス(1988年)

第三章 帮の恐怖(1994年)

第四章 三つ子の魂百まで(1991年)

第五章 「関係」の移転(1996年)

第六章 チャイナ・オペレーション(2001年)

第七章 反日デモ(2012年)

第八章 それから(2015年)

中国が改革開放を始めたのが1978年。
その10年後から天安門事件を挟み、世界の工場に至るまでの話だ。

読み進めていると、きっと1990年代は中国ビジネスでいちばん面白い時期だったのだろうと思う反面、同時に生半可な気持ちでいると骨の髄までしゃぶられる時代でもあったようだ。

今はあからさまに食い物にする悪党は減っているように思うが、清廉潔白な社会になって面白さも半減といったところだろうか。

自己人という関係

私は「中国人だから◯◯」という物言いは好きではない。ことさらに中国人、日本人と区分けして考えることはしない性分です。
中国人は13億人もいるし、日本人でさえ1億人以上いる。悪いやつも良いやつもいるし、真面目なのもそうでないのもいる。自分の場合も何度か煮え湯を飲まされてきたが、半分以上は日本人からよw

・・・と前置きした上で、自分が肌で感じてきたことのひとつにあるのが、中国人は身内を非常に大切にするということ。身内といっても二種類あって、親戚とか本当の身内は自家人、そして血縁はないがそれに相当するのが自己人(ズージーレン)。日本でいうと親友がそれに近いが、それよりはるかに強固な結束関係だ。お互いのタマを握り合っている状態といえば分かりやすいだろうか。

親友がそうであるように、自己人も相互関係。相手がピンチに陥れば、何が何でも助ける。この自己人をどれだけ作れるかが、中国やアジアにいて成功する秘訣ではないかと思う。

主人公である千住樹も、自社の進出先である広東省の地方都市でひょんなことから2人の役人の信頼を得て自己人の関係になり、あるビジネスを始める。

これが第二章の「脱税物販ビジネス」なのだが、もちろん脱税だから合法か違法かで言えば違法だ。数百%の関税を0にしてしまうのだから、アンダーバリューの比ではない。税関トップが噛まなければこんなことはできないが、一昔前の中国ではこんなことは当たり前だった。儲けた金は役人2人と主人公の3人で分配。

つまり自己人同士の間では、判断軸が「法律上、悪いことか、良いことか」ではなく、お互いの仁義を通すことなのだ。善悪ではなく、「中国大陸とはそういうものである」と理解することだ。

これは中国大陸という地域を理解する上でかなり重要な視点だと思う。
自己人同士のつながりは、いわばゴッドファザー同士のつながり。その自己人自身が面倒を見て、慕っているのがファミリー。

まさにマフィアの構図だが、ここ数世代だけでも清→中華民国→内戦ゴタゴタ→日本軍が進駐→また内戦再開→大躍進で餓死者数千万人→文化大革命で大量処刑&人肉食と続き、混迷を極めたのが大陸。正しいと思っていたことが、突然覆されるのも日常茶飯事。

そして共産党が治世する現在は法治国家ではあるが、その法律は共産党が自身に都合のいい国にするためのもの。自分たち共産党ファミリーの利益を守るための法律を作るわけだ。

筆者はこのことを指して、世界最大のマフィアと定義しているのだろう。
現代中国はこの組織がデカ過ぎて、あらゆる地域・職域の末端にまで党員が目を光らせているため”共産党の利益に反する”違法なことはリスクが大きいが、ちょっとした問題解決はやはり自己人の関係が大事だ。

日本は明治維新以降、拡張政策→敗戦→連合国(米軍)占領下→独立・・・と政治でゴタゴタがあっても、基本的に中の官僚は同じ気がする。戦争中に国務相だった岸信介なんて戦後総理大臣になってるし、今の安倍総理はその孫だもんな。お上からして変わってないw

で、中国共産党が山口組と警察と自衛隊を合体させたような誰も刃向かえない超巨大マフィアだとすると、共産党以外の13億の人民はどうすればいいのか。

「上に政策有れば、下に対策あり」とは有名な言葉だが、
要するに「自分の身は、自分で守る」というわけだ。

後述の「帮」もそのために自然発生的にできたシステム。

私が経営しているイーウーパスポートが、なぜあの反日デモまっさかりの2012年に日本資本100%で作れたのか。その後の日中関係が冷え込んだときも、なぜ横槍も入らずに今も順調に伸びているのか。よく駐在してきた人に不思議がられながら聞かれますが、つまりそういうことですよ、兄弟!

贖罪意識が日中合弁事業をダメにする

中国にいて、自分が日本人であると意識する瞬間とは。
居酒屋や和食の店で味噌汁を味わう時・・・ではない。

偶然目にする抗日ドラマを見たときだ。

偶然といったが、テレビでは毎日どこかのチャンネルでやっているし、
中国では食堂や電車の移動中でもイヤホンを付けずに大音響でネット動画をみるのが普通だが、結構な割合で抗日ドラマが見られている。

もちろん仇役は日本人。機関銃で丸腰の庶民を処刑したり、日本兵が集団で学校を襲って処女狩りをしたり、戦車で八つ裂きにしたりと現実にはあり得ない描写が山程出てくる。もっとも水戸黄門はじめ時代劇だってかなり脚色されているから似たようなもんだが、水戸黄門は悪役が過去の者だからまだマシ。ハハーッと観念して改心したりするしな。

抗日ドラマの場合はそれが本当にあったと思われるわけで、自分が貧しいのも過去の日本の侵略のせいと何故か責任転嫁され、今の日本人と重ねられる。これ嘘みたいな本当の話。テレビでしか日本を知らない子供や純粋な人民が日本憎し!となってもそりゃ不思議じゃない。

まぁ抗日ドラマは誇張されたものだったとしても、日本が中国と交戦した事実は変わらないけど。
日中戦争の相手国は中華民国であって今の中国ではないという論調もあるが、そもそも中国大陸を日本軍が占領していったのは事実なのだ。当然戦闘があったわけで、その過程では少なからず民間にも損害を出してしまったわけで。

結果として日本の敗戦で日中戦争がおわったものの、当時中国には大量の日本人が住んでいた。子供の頃にそこから引き揚げて日本で育った人たちが会社の重鎮になる年齢、それが1990年代だった。

本書でもこんなセリフが出てくる。

「ノスタルジーに浸った日中友好ですべてが片づくと信じている人たちは本当に邪魔だよな。そりゃ贖罪意識もあるだろうよ。でも、おれたちは大陸に商売に来てるんだ」(159ページ)

もちろん日中戦争を通じて日本が中国大陸の住民に迷惑をかけてしまった事実は消えないが、
戦後生まれである自分らがそれを負い目に感じて、
現地法人が赤字を出しても、現地社員がグルになって不正に中抜をしても、贖罪の一環で片付けるかと言われれば答えは「ノー」だ。

私だって商売でやっている。
日本人であろうと中国人であろうと、同じ目標に向かって共に力を合わせて頑張っているのだ。

自分の「帮」を作る

本書によれば、帮(帮会)というのは、集落、会社、学校、およそ人の集まるところには必ず出来て、取り仕切るボスもいるグループだそうだ。会社をやっていれば自然と社内で「帮」ができ、会社の利益よりも帮の利害を優先するようになるらしい。ん・・・? 会社を国家に例えれば、共産党は帮になるのかな?

帮の利益を優先というのは、具体的には帮メンバーで結託して中抜きし、自分たちの利益を増やすということだ。イコール会社の利益は減るわけで、到底許せるものではない。だが、外資系の殆どは現地で抜かれに抜かれているという。それが上述した贖罪意識と結びつくと「まぁそれでも、中国には過去に迷惑かけたし、仕方ないか」になってしまうというわけだ。

・・・冗談キツイぜ、まったく。

私もかつては帮にやられた

実は私も中国で2回会社の社員を一掃したことがある。

最初は2008年。会社ではなくパートナーだったが、1000万円近く抜かれていたことに気づき、関係解消。初めの頃にちょっとした不正があったが赦したことでナメられ、付け上がられた。完全に日本人の性善説的甘ちゃん発想で、自分の詰めが甘かった。

2回目は2011年。今も経営しているイーウーパスポートの現地法人の設立途中だったが、作ったばかりの会社の実印、浙江省からの設立批准証書(これを取るのが大変)を隠されて「この給料ではやってられない」と言われてしまった。もちろん全員解雇したが後味が悪かった。

失敗の本質は色々有るが、
「ナメられていたこと」これに尽きる。面従腹背というか、社長である前に日本人であるという域を出られず、事ある毎に「この社長は中国を侵略したあの日本人だから、騙したって構わない、むしろそれが正義」という発想になったわけだ。日本人、中国人という立場を越えた関係になれるように努力しなかったのだ。

以来、私は社員としっかりと関係を築くように努力している。つまり会社の中にできる帮を、自分が中心の帮にしてしまうのだ。むろん社員とともに成長し、社員とともに成功する帮でなくてはならない。

私が会社の経費では豪遊せず、移動はLCCを使って、出張時もカプセルホテルやサウナに泊まることがあるのはそういうこと。

基本的に女性社員なので夕食はしないができるだけ多くの社員とランチを一緒に取るようにしている。仕事への不満も直接言い合えるし、雑談も多い。そういう時は仕事時間ではないから、彼女たちの言葉でリラックスして喋ってもらえればいい。中国なら北京語、シンガポールなら英語、タイならタイ語でしっかり話を聞く。

いい意味で公私混同して関係を築く。
それが大中華圏、中国やアジアでうまくいく秘訣なのだ。

筆者もそう書いているが、私も完全に同意だ。

中国現地社員に舐められると結果どうなるか?

実は最近、経営している会社の取締役が辞任した。
中国でのマネージメントの仕方を事ある毎に教えてきたつもりだったが、尊大な態度が改まらず、コミュニケーションがうまく取れなかったようだ。

いるのよ、中国にいる限り日本人の方が優れてるって思っている人。私と同年代以上は特に多い。でも中国は中間層だけで日本人人口の2倍以上いることを忘れてはならぬ。

当然、会社で溶け込むこともなかった。仕事だから必ずしも溶け込む必要はないかも知れないけど、大事なのは職務遂行でしょ。中国の社内で自然発生的に出来た帮と対立して、結果として立案した事業の賛同も得られず、「遂行能力がない」「責任感がない」などと総スカンを食らってしまったら、それもままならないじゃん。

こんなふうに仕事がやりづらくなったらおしまい。社長の私でも庇いきれない。イチから再スタートしなければならない。

社長なら会社を一掃すればいいが、取締役なら別の会社にいくか自分で会社を作るしかないよな。てことを話したんだけど、辞めたくないとか会社に尽くすとか言われて。でも取締役は結果が全てだからさ、私もバカじゃないんで。

最後に響いた言葉を引用したい。

「説明しづらいんだが、おれの言うつまらない大人とは、チャレンジする前に頭で答えを見つけるような人間のことだ。状況を聞いただけで勝手に判断し、自分で何度も現場に出向いて現実を見ようともしない」
(150ページ)

日本人と、中国人の違いは、まさにここにあるのかもしれない。


本書はこちら。

大班 世界最大のマフィア・中国共産党を手玉にとった日本人(→Amazon)

 

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佐藤 大介

起業家。イーウーパスポート代表です。

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