少し前に、お客様が発言した「恋人とのセックス」という話題でタイ人女性社員が凍りついたことがあった。女性社員は笑顔で話題を逸らそうとしたがその話題は続く。その翌日、会社を辞めるとまで言いだした。
男性顧客が若い女性社員にセックスの話題を自然に振る。その根源にはタイに対する誤解があるようにも思える。
この一件で、私が思ったことを書いておこうと思う。
目次
こちらはバンコクにあるソイカウボーイ。
上場企業が多数入居するオフィスビル街のど真ん中にありながら、この200メートルほどの通りだけが、ゴーゴーバーが並ぶ妖艶な雰囲気を放っている。
ゴーゴーバーとは若い女性がお立ち台で踊っているのを見ながら男性客が酒を飲み、指名してペイバー(お店にお金を払って店外に連れ出す)する風俗店。女性は水着だったり、セーラー服だったり、スッポンポンという店もある。通りにはレンタルルームがあり、1時間500バーツ(1,750円)で「休憩」できる。これらを含めたセックスの相場は総額1万5,000円程度でシステム化されている。
今ではそうでも無くなったが、一昔前は「男だけでタイに遊びに行く」と「女を買う」はイコールだった。私を含めw本人たちがそのつもりはなくても、そう思われていたものだ。
もちろんペイバーせずに飲むだけもOKだ。午後9時頃までならビール1本100バーツ(約350円)が相場なので猥雑とした「タイの雰囲気」を体験してもらうのも一興だと思いよくご案内している。顔が利く店ならトラブルとも無縁だ。
こんな歓楽街をバンコクのみならず全土に多数抱えているタイは、風俗産業が盛んであるというイメージから性に対しては非常にオープンなイメージがある。まず最初に断っておくが、そんなことはない。ソイカウボーイやパッポン、パタヤビーチなどは新宿歌舞伎町や浅草吉原と同じでそれが国全体ではない。
ソースは後述するが、風俗産業に従事している女性は常に30万人いるらしい。仮に平均5年間、その仕事をやったとすると毎年6万人が入ってきて、6万人が足を洗ということだ。やや乱暴な推算だが、女性の出生数が年間50万人くらいとすれば、実に12%の女性が風俗勤務を経験したということになる。
12%=8人に1人が風俗経験者という計算。
というのは、タイの話ではなくて、
なんと我が日本のことである。
で、上の風俗産業の従事女性が30万人というソース。その道では有名な本『夜の経済学』
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本書によれば日本に性風俗店は約1万店舗あり、常時30万人が従事しているという。
人口1億3000万人に対して0.23%だ。
ここにパパ活や援助交際といった個人売春婦は含まれていない。私は日本でも中国でもタイでも、飲み友女子が何人かいるが、これらは個人恋愛の範疇だ。
一方でタイは15万人〜20万人(WHO・世界保健機関推計)で、人口6500万人に対して0.3%。確かに割合としては日本よりもタイのほうが多いが、極端に多いわけではない。この数字から分かることは、「普通の人」は日本と同じということだ。
ゴーゴーバー街が点在して大っぴらに風俗嬢、援交、パパ活女子が闊歩していることから誤解しがちだが、実は日本と大差ないのだ。日本人がこちらでモテるのは中国と同じでブルーオーシャンだから。「日本人」というだけでモテるし競争力があるので、余計に風俗産業が巨大に見えるのだろう。もちろんモテるのは日本人というよりも日本円、JPYのパワーである。
話の根幹なので注釈するが、貞操とは婚前交渉をしないということだ。セックスするのは後にも先にも夫であるあなただけということである。むろん男にも同じことが言えるのだが、残念ながら標準的な男はそこまで高尚ではない。だが、もしそうなら非常に敬われる。
誤解を恐れずにあえて言えば、結婚という一点で言えば「処女でなければ結婚相手としてみなされない」ということだ。上座部仏教の国というお国柄もあるだろう。とはいえ本音と建前というものがあるのが人類社会。お金のために自分の身体を売る女性は後を絶たない。日本の場合も自ら好んで風俗に従事する女性は少ないと思うが、タイも同じだ。日本と違うことは、日本では自分がより経済的に豊かに生きるための手段として身体を売るのに対して、タイは家族のために止むを得ずというのが殆どだ。地方都市の少女置屋にいる子に至っては自分の意志とは関係なく親が売っている。それほど格差がひどい。
一人あたりGDPで言っても、バンコク首都圏の41万617バーツ(143.5万円)に対して、東北部イサーン地方は7万906バーツ(24.5万円)に過ぎず、6倍もの格差がある。しかもこのイサーン地方というのが少数派ではなく、人口構成で2000万人とタイ総人口の30%以上を占めている。痩せた土地で農業しか産業がなく、イサーン地方と国境を接しているのはASEAN最貧国のひとつラオス。内陸で交通も不便なため工場も出来ない。(実はイサーン地方の住民は民族的にはラオス人と同じ)
そんな状況でも、タイは経済発展を遂げていてテレビからは綺羅びやかな都会生活が流れる。農業では搾取されて稼げないけど、会社員、公務員になればタイの経済成長と一緒に自分たちも豊かになれる。
自分は高校も出ていないから会社勤めは無理だ、でも工場の給料は安すぎてその場所で生活するだけで精一杯。
せめて弟や妹を大学に行かせたい。
両親も朝から夜まで農作業で疲れている。
私が頑張って、楽させてあげたい。
そんな時、バンコクに出稼ぎに行った友達から「稼げるよ」と言われたら・・・
ゴーゴーバーでもテーメーカフェでも、ニコニコ愛想よくして1回セックスするだけで1万円入ってくるのだ。中にはチップを多めに貰えたり、金持ちに気に入られて愛人契約という手もある。工場で長時間必死で働いても月収5万円が関の山。ただ自分が我慢すれば月収30万円いける。ホワイトカラーの女性よりも稼げる。
自分が我慢すれば、弟も大学に行ける。両親にも楽させてあげられる。
こんな気持ちからバンコクやパタヤ、サムイ島と言ったリゾートに行き、風俗産業に従事するのだ。実際には精神がボロボロになって薬物に手を出す子も多くいるという。無知な子から搾取する構造。とんでもない悲劇だ。
学費をかけて大学に行き、バンコク市内の会社で働いている人から見ると、彼女たちの世界は別世界である。私が経営している会社のタイ人社員も、当然会社の目の前にあるソイカウボーイがどんな場所か知っているし、外国人がタイ人の売春婦と夜な夜な遊んでいることも知っている。だが、別世界なのだ。風俗従事者は蔑まれている。言葉に出さなくても、明らかに境界線がある。「そういう人と、私達は違う」のだ。貞操を守らない、どうしようもない人たちなのだ。その遠因が経済格差にあるのだとしても、そこを是正するできるのはまだまだ先だろう。タイは高度成長中の社会矛盾を抱えているさなかで、これは日本も中国も通ってきた道だ。
ということで、タイ人は基本的には婚前交渉はタブーであって、付き合うこと=婚約と思ったほうがいいくらい。もちろん貞操は結婚するまで守り通す。もし普通のタイ人女性と付き合って男女の関係になった後、別れ話でもしようものなら殺人事件に発展してもおかしくないので注意すべし。殺すというよりも、ナニをアレするみたいだけどね。
貞操についてもう一つデータ。
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によると女性の平均初体験年齢は20.5歳。日本は19.4歳なので日本のほうが平均1歳も若い。さらに10代前半置屋に売り飛ばされる子もいるし、バンコクの風俗産業は概ね20歳前後ということを踏まえ、タイ女性の平均初婚年齢は25.5歳(タイ統計局)なので、結婚=初体験といっても差し支えないのかもしれない。ちなみに20-24歳の日本人女性の婚前交渉率は35.5%(厚労省「出生動向基本調査」2015年)。タイも似たようなもんでしょう。
国立社会保障・人口問題研究所 出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)|国立社会保障・人口問題研究所 - www.ipss.go.jp |
で、本題。
冒頭でも書いたけど、日本で取引先と一緒に飯食ったとして、そこに25歳の女性社員が居たとしますね。初対面でビジネス上の付き合いという中で、「彼氏がいてもセックスしないって、信じられないよね」「君はセックスするの」って、なかなか聞かないと思うわけ。
それがタイ人相手だとどうして聞いてしまうのか。それはタイの性に開放的というイメージから来るのだと思うが、それってタイ人からしたら失礼な話。
キャバクラやカラオケのキャストに聞くならまだいいよ。笑いネタになるし、そもそもそういう店だし、タイはそういうのも含めての格差社会だから。でも普通の日本人が聞いたらドン引きする。タイ人も同じ。
何が言いたいのかと言うと、タイの格差社会は経済的なものだけでなく見えない精神的な階層で、「婚前交渉する女=悪い子」「身体を売る人=経済的に最底辺」というもの。
特にビジネスレベルの日本語ができて、貿易業務に従事するような女性社員はタイ社会の中で上位20%に入るレベル。私の会社の社員も、国立大卒が多い。タイで国立大というのは王室が関与していてかなりのエリートです。
彼氏がいるかどうかは知りませんが仮にいたとしても将来の結婚相手ということで、性的な話をされて気分が言いわけがありません。で、セクハラな話をされてもお客様の前だし、頭がいいのでその場では「軽く流す」のですが、深く傷つくわけですね。
「この会社にいたら、日本人に、そんな最底辺の人間に見られるのか・・・!」って。
タイ人女性、プライドはメチャメチャ高いですよ。女性の管理職が30%以上というのも頷けます(日本は7%)
あの時は私も苦笑いしましたが、社員のためにはその場でお客様に怒ったほうが良かったね。そのお客様との取引はなくなるかもしれないけど、社員が辞めるよりマシ。というわけで、次回そんなことがあったらその場でサービス終了ということで悪しからずご了承のほどお願い申し上げます ^^
ところでタイ東北部、イサーン地方は農業のほか目立った産業がなく、貧しい家庭が多い。タイはものすごい格差社会で、少数ではあるが10代前半でそうした置屋で働かされる女の子がいる。
私は2016年から2年間ほど、タイ東北部の地方都市コンケーンに月1回ほど出掛けていた。当時付き合っていた今の妻がそこの学校に通っていたからだが、その時にレストランなんかで日本人や韓国人、中国人オッサン連中が少女置屋の話をしていたのを聞いたことは一度や二度ではない。少女置屋というのは概ね15歳未満の少女とのセックスを提供する場所で、小学生くらいの年齢もいる。当地ではちょっとそういう場所に行くと普通にあるが、当然タイであっても違法だ。
(※注:私はお金で女性の時間を買うことはしないし、18歳未満とやったこともないし、やろうとも思いません)
そしてバンコクや、パタヤ、プーケット、サムイといったリゾートで風俗産業に従事している女の子も、高い確率でイサーン出身。もしタイに来た時に、そういう女の子と話をする機会があれば出身地を聞いてみてみたらいい。
自分の意思と反して身体を売る、売らざるを得ない若い女性がいる状況は、もちろん変えなくてはならないと思う。これはタイ政府はもちろん、人類全体で対処すべき問題で、売る側、買う側を単純に処罰しても何も解決しない。
貧困が原因であれば、そこを解決しないと。日本軍慰安婦問題なんかより、現在進行系のこっちのほうがよっぽど緊急性が高いよな。
でもそれは長くなるのでまた別の機会に。