タイ・カオヤイ国立公園でソロトレッキング

カオヤイ国立公園の密林でソロトレッキングをする佐藤大介

2021年11月13日、バンコクから車で3時間。タイのカオヤイ国立公園へ、ひとりでトレッキングに出かけました。有名な避暑地で家族連れも多い場所ですが、僕が足を踏み入れたのは、人の気配が消える密林の道。猿、鹿、キングコブラ、崩れた川沿いのルート、そして「クロコダイルに注意」の古い看板――最初から最後まで、予想外の連続でした。

地図はある。でも、道が分からない。

まずビジターセンターでトレッキング用の地図をもらいました。ところが、これが驚くほど簡略的。Googleマップにも登山道は載っておらず、山へ入ると携帯電話の電波も届きません。海外の山で、地図も通信も頼りにならない。役に立つのは、目の前の地形と自分の判断だけでした。

カオヤイ国立公園のビジターセンターでもらったトレッキング地図

公園には家族連れが大勢いましたが、トレッキングルートへ入ってからは、人間に一人も会いませんでした。行く手を倒木がふさぎ、草木は道を隠すほど生い茂っています。代わりに遭遇したのは、猿、鹿、そしてキングコブラ。タイの密林へ一人で入ったことを、嫌でも実感しました。

倒木にふさがれたカオヤイ国立公園のトレッキングルート

「ワニがいるから泳ぐな」。いや、泳ぐつもりはない。

最大の難所は、雨で崩れた川沿いのルートでした。先へ進むには、川幅約2メートルの浅瀬を渡らなければなりません。浅いはずなのに、水は濁って底が見えない。そのすぐそばで見つけたのが、「DANGER CROCODILES/NO SWIMMING」と書かれた古い看板でした。

川沿いに立つワニと遊泳禁止の注意看板

看板を見た瞬間、背筋が凍りました。天然のクロコダイルを見てみたい気もする。いや、やっぱり遭いたくない。そう思いながら浅瀬を越え、川沿いの道を先へ進みました。

2時間51分、3.75km。秘境の滝を独り占め。

GPSの記録は、12時09分49秒から15時01分40秒まで。記録時間は2時間51分51秒、距離は3.75km、標高は623メートルから710メートルでした。距離だけを見れば長くありません。それでも、簡略的な地図、圏外の山中、倒木、崩れた川沿いの道が重なり、数字以上に密度の濃いトレッキングになりました。

カオヤイ国立公園の密林を抜けて到着した滝

密林を抜けてたどり着いたのは、人の姿がない滝でした。水音だけが響く場所で、滝を独り占めしながら食べたのはカップヌードル。豪華な料理ではなくても、ここまで自分の足で来たあとに食べる一杯は格別でした。

カオヤイ国立公園の滝を眺めながら食べたカップヌードル

食後は、滝を眺めながらコーヒーを一杯。道中の緊張が、ここでようやくほどけました。異国の山奥で、秘境の滝を前にカップヌードルとコーヒー――最高です!

カオヤイ国立公園の滝を眺めながらコーヒーを飲む佐藤大介

帰路、洞窟の寺へ。

翌11月14日、カオヤイからバンコクへ戻る途中、近郊のワット・シマライ・ソン・タム(วัดศิมาลัยทรงธรรม)へ立ち寄りました。タイは言わずと知れた仏教国。僕のような不信心者でも、お寺に参ると心が晴れ晴れします。

ワット・シマライ・ソン・タムの洞窟へ下りる入口

洞窟の最深部へ下りる途中から、どこか妙な気配を感じました。階段の先へ進むほど地上の光は遠ざかり、岩に囲まれた空間へ入っていきます。不思議な感覚がありながらも、洞窟の中には確かな荘厳さがありました。最深部で手を合わせると、密林を歩いていたときとは違う静けさに包まれました。

ワット・シマライ・ソン・タムの洞窟最深部で参拝する佐藤大介

地上へ出ると、さらに想定外。

洞窟から地上へ出ると、そこには何とも形容しにくい独特の世界が広がっていました。大きな樹木の造形、空中に並ぶ人物像、鮮やかな色彩。厳かな洞窟の余韻とは、まるで別世界です。

ワット・シマライ・ソン・タムの独特な人物像と樹木の造形

どうして、こうなったのか。ここのお坊さんは芸術肌なのか。それとも、数多くある寺に埋もれないための差別化マーケティングなのか。真相は分かりませんが、機会があれば、ぜひ説法を聞いてみたいと思いました。

カオヤイの密林では野生動物とワニの看板に緊張し、滝ではカップヌードルとコーヒーに満たされ、帰路の寺では荘厳さと独特すぎる世界観に驚かされました。同じ旅の中で、これほど違うタイに出会える。だから、自分の足で現地を歩くのは面白いのです。